高速電源の罠

 21世紀になっても、オーディオ界では[トランス][ブリッジダイオード][電解C] という電源の基本構成は生き残っています。 パルス電源はSONYがTA-F6(多分まだ'70年代)で採用していますが、 評論家の評価を得られずオーディオ界では結構嫌われ者でした。 '80年代に入りヤマハがB-6でトライアックを使い電源の効率を飛躍的に高めましたが これも評論家に嫌われ短命に終わりました。 デジタルD級アンプと呼ばれるカテゴリが台頭してくるに至りスイッチング電源の採用を 阻害する要因がなくなった…のですが、このテの電源を毛嫌いしていた評論家が亡くなった 事と無関係とは思えません。

 古来より伝統的に愛用されているC入力電源。高級アンプでは 「巻線抵抗の小さな高級トランス」 「高速スイッチングの高級ダイオード」 「高周波特性に優れた高級電解C」 が贅沢に奢られます。 これらを使って作った高速電源は通常の電源より遥かに高速に極小の通電時間で 平滑Cの充電を完了し、サイクルの殆どの時間ダイオードが遮断します。

 ダメじゃん!

 効率がいい筈の高価なオリエントコアやトロイダルトランスを使っても 音がよくならない理由はトロイダルトランスだからではなく、巻線抵抗が低いから。 しかも充電電流波形が鋭くなるので無駄な高周波ノイズまで出しまくり。 トランスとして優れているのにそのせいで音が悪くなるのは明らかに使い方が悪い。

 電源部にノイズフィルタを入れるとレギュレーションが悪くなる。これもよく言われます。 高周波ノイズを抑えるためにAC入力部にフィルタを入れれば当然です。 そこは交流で電力を供給しているのですから、 交流に抵抗になるフィルタを入れれば給電性能の妨げになるのです。

 整流部のダイオードと平滑Cの間にLを入れればどうでしょう。

 Lは交流に対しては抵抗(インピーダンス)ですが 直流に対してはただ巻いてあるだけの導線です。 まぁ余分に電線を通るのですから若干の抵抗にはなりますが。 しかしこれを入れる事により充電電流波形はピークが下がり充電時間が長くなります。 充電電流の立ち上がり/立下りもなだらかになり高周波成分の発生が激減します。 何よりダイオードの通電時間が長くなります。 折角巻線抵抗の小さなトランスを積んでも、 ダイオードが遮断していてはトランスの低インピーダンスは負荷から見えません。 ダイオードの通電時間が長くなると インピーダンスの低いトランスがつながっている時間率が増え、 レギュレーションは向上します。 チョークインプット電源は給電性能が高い贅沢な電源とされていますが、 Lを常に臨界で使わなくても小さなノイズフィルタ用のLを入れるだけで 音が如実に変わる程電源の性能は変わります。 C入力電源としての設計電圧を殆ど変えずに(数%電圧が下がります) 電源の質を飛躍的に上げる方法として既に何例も成功しています。今のところ失敗なし。

 これをsmall-L入力電源と名づけました。

 珍しく僕の発明ですが、残念ながらこれを発案したのは僕だけではなかったようです。 でもそれから10年以上経ちますが今もって業界の常識にはなっていません。 おかげで僕達一部の者だけのレシピとして差別化要素になっています。いひひ。
 マネしていいですよ。みんなでいい音聴きましょう。

執筆 2004年7月(2010年6月修正)

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